英国紳士に憧れて

格好いい英国紳士になるべく、日々の精進と思いをつむいで。主にホームズについて。

SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁

僕がヴィクトリア朝(中期から後期)のインテリアに激しく心揺さぶられるようになったのも、ドイル氏が描いた世界の紳士の影響です。

 


ヴィクトリア朝英国人の日常生活 上:貴族から労働者階級まで

 

さらには、グラナダが見事にその世界を再現してくれたことによる影響です。

家具や食器が好きな僕ですが、いたって凡人の僕はいたって平民ですので、
それほど高価なものを拘って取り揃えるというようなことをしたりはしません。
てか、できません。
一人暮らしの部屋はシンプルというよりは質素です。

要らないものは買わない主義。

代用できるなら安価で済ませるのが自分流。

 

なので装飾の凝ったアンティークの家具や、

お洒落すぎて日常じゃ使えないよ!というほどの食器などは、

ドラマや映画で楽しむというのをモットーにしています。

エコです(言い方)。

 

そんな中で、ドイル氏の描いたシャーロック・ホームズを現代版に置き換えて大ヒットしたドラマ、BBC製作の「シャーロック」。


Sherlock (Soundtrack from the TV series)

主演のベネディクト・カンバーバッチが現代版ホームズとして、
パソコンやスマホを操作し、
煙草をニコチンパッチに置き換えて、
電子顕微鏡を使って科学を駆使し、
ワトソン役のマーティン・フリーマンは、
手記をブログに代えて、

現代事件を調査、解決していきます。

 

そんな「現代要素」が当たったはずの海外ドラマが映画化!

しかもわざわざ「ヴィクトリア朝時代を舞台に置き換えて」いうことですよ。

え、二度手間!

…こんな第一印象をもって、映画館に行った(結局行ってるんだけども)わけなので、
内容のほとんどが逐一セットや小物なんかに目がやったせいで入ってこなくてですね。

ということで、ようやく見直しました。


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遅いのは重々承知。

でもですね(ここからはいいわけ)、
この作品、いわばシーズン3.5とでも言いますか、テレビシリーズの3と4の間の特別編なわけですよ。
そもそも、特別編として製作されたドラマ部分に、追加シーンを足しての上映となっているわけですし。
だとしたら、ちゃんと3も4も、いやいや、1~3までを通してかなり熟知していないと判らなかったネタも多くて。

劇場にて一回観たくらいじゃ、感想をブログに載せるにもさすがになーと思ってしまって。

だって世界中にファンがいる作品だけに、一応観たけどさくらいの感想はあんまり残したくないし。


ということで、長い時間を経て、ようやく真剣に見返して自分なりの感想を書くことにしました。現状の自分の今の備忘録として置いておくという意味でも、許してください(先に土下座)。

 

映画の鍵となっているのは「ドラッグ」。

【深く】【奥底へ】

そんな言葉がセリフに鏤められたヴィクトリア・ホームズは、

薬の力を借りて(言い方!)創り上げた、シャーロックの脳内の世界。

シーズン2で脳を銃でぶち抜いて死んだはずのモリアーティが再びイギリスに現れたことで、亡命時間わずか4分で再びイギリスに戻るよう指示されたシャーロック。

飛行機が着陸するまでの5分間に、なぜモリアーティが復活できたのかを考え、

そして1895年に世間を賑わせて未解決なっている花嫁事件にヒントがあるとして、

自分の意識を120年前にぶっ飛ばします。

 

そして登場するのが、ヴィクトリア・ホームズというわけですが、

なぜワトソンとの出逢いのシーンからやらなければならなかったのかは謎です。

(きっとファンサービスでしょうけど)

ファーストネームを呼ばない時代の設定なので、お互いを「ホームズ」「ワトソン」と呼ぶところは原作ファンを喜ばせてくれました。

そしてその風貌は、ストランド誌に掲載されているワトソンの記事の挿絵に寄せているらしいところも、なんか好きな要素です。

ハドソン夫人も、描かれている自分に不満が有りながらも、雑誌記者にお茶を振る舞って脚が棒になるほど忠実に「大家」を努めています。かわいいぞ、夫人!

クリスマスの日、レストレードが怖がってホームズに縋ってきた事件は、

頭を銃で撃ち抜いて自殺した花嫁姿のエミリア・リコレッティが、自分の夫をショットガンで殺すために蘇ったというもの。

「この世に亡霊などいない!」

と断言するホームズは、モリアーティが蘇るわけがないというシャーロックが言わせているセリフのようにも聞こえました。

霊安室で問題の花嫁とご対面しますが、その身体は死んでいるのに鎖でぐるぐる巻きにされていました。死人を逮捕したのはフーパー。

モリー、まさかの男装!

この時代はやはり女性がそんな仕事に就くことはできなかったんですね。

婦人参政権が物語のベースにあることがのちに判りますが、

この時点では極めて異質に見えましたよ、話が入ってこなかった理由の一つ。

 

もう一つの理由は、マイクロフト氏の肥大ですよ。

笑った笑った。

原典好きからの待ってました!が聞こえましたが、あそこまでの巨大化とは思いませんでした。

しかも賭をしているからという子供のような遊び。遊びの延長でプディングを食べ続けるマイクロフト。マイクロフトの異常性が出てるお勧めシーンです。

 

ディオゲネスクラブの会話がまさかの手話というのもステキでした。

受付「ワイルダー」に挨拶するときのホームズの手話、ホントに合ってますか?

ここでの手話やマイクロフトとの会話、霊安室での「双子では?」などなど、

今回のワトソンはかなりのバカっぷりです。

まあ、道化を演じているということなので、実際には「すこぶる賢い」という結論ですが。

 

シャーロックの脳内が創り上げている世界なのですから、

マイクロフトもジョンも、実はシャーロックにはこう見えているんでしょうかね?

ザコシショー並みに誇張されているとしても。

 

現代と過去を行き来する間に、思考に交錯が生まれますが、

ポイントとなるのは【呼び方】です。

ホームズとワトソン、ファミリーネーム。

二人のホームズと二人のワトソン、ホームズ兄弟とワトソン夫妻。

もともと言葉遊びが秀逸というのが作品の面白さですが、

今回のもふんだんに盛り込まれていました。

 

夫に内緒で『イギリス』と手を組むメアリーは、

現代では『イギリス』のメンツを一言でひねり潰しています。

 

何度も観ると深読みできる単語が続々現れます。

だから所見だけでは感想書きたくなかったのかも。

 

マイクロフトの依頼を引き受けた事で、花嫁事件解決にこぎ着けたホームズ。

裏付けをしたいからと、現代でエミリアの墓を掘り返すシャーロック。

決着をつけなければ、彼の中のモリアーティの亡霊が消えません。

ヴィクトリア・ホームズと対峙していたモリアーティは、

原典同様ラインバッハの滝に墜ちて死んだ事になっているようですが、

その死体は見つかっていません。

だから再び現れるかもしれない…しかし、ホームズの前に現れるのは、「シャーロック」とファーストネームを呼ぶ現代のモリアーティです。

シャーロックの記憶の宮殿においては、モリアーティは現代にしか存在しないという事になっているのでしょう。

それこそ、彼のハードディスク(脳)に巣喰うウイルスという存在です。

 

ウイルスに浸食され、滝壺に落とされそうになるホームズを救うのが、ワトソンです。

原典にはなかった、絶体絶命のピンチに登場! 格好いいぞ、ジョン!

絶体絶命のタイミングでは必ず親友は助けに来てくれる、これはシーズン4に繋がっているところに思えます。

 

モリアーティに「駆け落ちしろよ、気持ち悪い」とまで言わせるほど、ワトソンとホームズの会話は、恋人のいちゃつきです。全ての感情に嫌悪するホームズが親友にだけ見せる全ての表情。モリアーティの入ってくる余地なんてないという事です。

 

薬物から目覚め、急ぎジェット機を降りようとするシャーロックは、事件に相対するためベーカー街に戻ります。

 

薬なんてしてる場合じゃない、事件が起きた。

 

つまりイギリスが平和なら、シャーロックは薬物中毒者に逆戻り。ジョンもマイクロフトも辛いところです。

 

シリーズ全体を通して、究極の選択はとてもうまく使われています。

シャーロックがグラナダ・ホームズや原典と明らかに違うところは、

誰が何に選択を迫られているかというのが、視聴者側にも見えるところ。

脳内の可視化といい、デジタルを用いることで「見せる」を多用するのもなかなか斬新です。

 

さて、劇場版シャーロックを観るにあたり、感想を書かなければと言う思いもありまして、全シリーズをなかなかの回数再生しました。

結果で言うと、過去シリーズを再度ひもとかないと判らないワードもあり、新シーズンでキーとなってくるのであろう部分も盛り込まれていたという点から、総合的に良くできた話だなと思うわけです。

しかしながら相変わらず難解で、脚本陣が一番楽しみながら造ってるな―っていうのが、痛いほど伝わってきました。

あ、褒めてます。