英国紳士を考察2「瀕死の探偵」
好きな作品は何かと尋ねられたら、
真っ先に答えるのは「瀕死の探偵」。
コカインやらなんやらで体もボロボロだし、
事件に没頭している時は何も食べないで内臓ボロボロだし、
その辺の悪漢くらいになら勝てるくらいの柔術の腕を持っているにもかかわらず、
時々負傷して帰ってきて傷だらけだし、
常識人には意味も分からないことをブツブツ呟いているのはまあまああることだし。
作品としては物語後半の話なので、
そこまでのストーリー全てを楽しんできた読者だとしたら、
「今さら何言っているんだ、常に瀕死だろうが?」
というツッコミを入れたりもします。
そういう意味では、タイトルから惹かれた作品だったりもします。
冒頭で、「マジで瀕死なんだな」という始まり方をするから、
このストーリーはいいのです。
結婚を機に、ベーカー街での共同生活から離れて新居での生活をしていたワトソンは、
ホームズの「瀕死」っぷりをハドソン夫人から聞いてベーカー街に駆けつけます。
「もうとにかくすぐにでも死にそう」と言う夫人の言葉通り、
探偵は高熱にうなされ錯乱し、ベッドに横たわっています。
ここでホームズがうなされている理由が牡蠣の繁殖能力だというのが、
僕のお気に入りポイントです。
「牡蠣が~! 牡蠣が~!」
なぜドイル氏がこのワードを錯乱したホームズに言わせたのかを知りたいくらい。
グラナダ・ホームズでも、牡蠣のシーンを忠実に再現てくれているあたり、とてもうれしいのです。
ソファに横たわり、
牡蠣に怯えて頭を抱える憔悴しきった(演技)のホームズの姿を見たときは「ブラボー」と叫んだくらいです。
ベッドにいないのかよ!
ワトソン、意外と近くまで行ってんな!
という小さいなツッコミはありましたが、
完成度の高い再現ドラマだったと思います。
今回の敵であるカルバートン・スミスを逮捕したのち、
ぼさぼさの髪のままで仮病に使った道具を、
ワトソンにちょっと自慢げに説明しています。
三日三晩飲まず食わずで病人になりきっていた探偵に、
ハドソン夫人は胃に優しいスープを振る舞ってくれます、ブラボー!
「君とハドソンさんに危篤だと信じ込ませることが大事だったんだ」
瀕死から回復(?)した探偵が不用意にはなった一言は、
あれほどに優しいマダムを怒らせます。
「ホームズさん! あなたはロンドン1たちの悪い下宿人ですよ!」
ああ、怒ったハドソンさんも…素敵です、ブラボー。
見どころは牡蠣と夫人。
しかしこの回、原典はハドソン夫人がワトソン医師を迎えに来るところから始まるので、かなり短めの短編です。
ドラマ要素では、脚本でだいぶ書き加えられているので、
瀕死の探偵が見られるのは物語の後半だけだったりもする。
もう少し瀕死探偵部分を盛ってほしかったなぁ。
ワトソンを閉じ込めるためにダッシュで布団から飛び出してくるホームズも再現してほしかった。
シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.21 [DVD]
ところで、この「瀕死の探偵」が収録されているのがDVD21巻。
こちらの見どころは何と言ってもハドソン夫人が、
探偵の危篤をドクターに知らせるために走るシーンですが、
同時収録の「三破風館」では、
ドクターの方が悪漢と戦い重傷を負います。
それを探偵に知らせうろたえる夫人が一枚に収められています。
夫人のかわいさをお見逃しなく!