英国紳士に憧れて

格好いい英国紳士になるべく、日々の精進と思いをつむいで。主にホームズについて。

英国紳士を考察13 ~オレンジの種5つ~

グラナダ・ホームズは原典を極力再現することを目的として制作されていました。


その中でドラマ化されていないタイトルがいくつかあるという記事を前に書きましたが、ではなぜ落選したのかということを考察してみました。


もちろんホームズ役であるジェレミーが健康であれば、その後も制作されていたんだと思います。それでもストーリー的に後半にしてしまう理由は何かしらあるだろうと考えたわけです。

 

以前の記事、『ライオンのたてがみ』は語り手がワトソンでなくホームズ自身だったことが要因だったと僕は思っています。

ワトソンが書記をしているという設定に変更してしまえば実写化できたかもしれませんが、それだと原典重視じゃなくなってしまうということになります。

 

ukgentleman.hatenablog.com

 

今回は『オレンジの種5つ』について。
このストーリー、実は探偵ホームズが全く活躍してません。それはもう、びっくりするくらい。事件として取り上げて良いのかワトソンと首を傾げるくらいです。


物語は、9月末の寒い雨の日。

若い依頼人がベーカー街に訪ねてくるところから始まります。


この話の冒頭(といってもワトソンの語りがむちゃくちゃ長いけど)の会話が僕のツボです。

ホームズがスマートにワトソンに告白しております。

ワトソン「ベルの音だ。こんな夜更けに誰が来たりするんだろう? もしかして君の友人か?」


ホームズ「君以外に友人はいないよ」

 

こんなにするっと!

ホームズにとって、レストレードは警察関係者となり、友人ではないのでしょう。

『マスグレーブ家の儀式』では、ホームズはかつての学友の家を訪ねますが、これもどうやら友人という扱いではないようです。
一緒に住むことができるほどの友人となると、それはワトソン一人だけなのだという意味なのでしょう。

とび上がって喜びそうな言葉なのに、ワトソンは

ワトソン「じゃあ依頼人かな?」

と流してしまいます。

 

えー、もっとリアクションしようよー。

例えドアの前に、困難なことにぶち当たって悩んで、急いでやってきた依頼者がびしょぬれで立っていたとしたってさー。

そう、この会話があるだけで、僕の中でこのお話は好きな話の部類に入ってしまいました。改めて読み返すと、たった二言のこの会話で優劣を付けていいのか疑問です。僕は今回、読み返してかなり反省しました。

 

依頼人は自分に届いた封筒に怯えていました。自分の叔父と、父親も同じ封筒を受け取り、その中身に怯えました。それが5つのオレンジの種です。
その封筒を受け取ってから数週間で、彼の父も叔父も殺されてしまいました。自分にも死が迫っていることを若者は悟っていたのですが、その原因と犯人がわからない。
「助けてください、ホームズさん」
という話です。

その後すぐに依頼者は殺されてしまい、ホームズはひどく落ち込みます。

自分の初動が遅れてしまったこと、犯人への怒りでホームズは犯人に辿り着き、殺された人と同じ恐怖を味あわせてやるべく五つの種を封筒に入れて犯人に送りつけます。
結果、その封筒は犯人の手元に届くことは無く、実は犯人たちはすでに船の事故によって…というストーリーです。

…うん、ジェレミー動かない!

怒りで動揺するホームズしか見せ場が無い! 

だいぶ脚色しないと映像的にもたない! これ無理無理だわー。

 

実際、グラナダにおいても脚色がすごいものも結構ありますけどね。脚本どうにかしないとテレビ的に無理だという短編もあることは事実です。『瀕死の探偵』も『サセックスの吸血鬼』も原作には無かったけど足されたシーンは膨大でした。サセックスなんて通常放送じゃなくてスペシャル枠だったから時間も長かったし。

 

に、してもです。

ドイル氏も書いてみてこれって納得できたの? 打ち切りだったの? 書きたかったことってマジでこれ?
というような内容です。

それでもこの作品は、ホームズのたった一言だけで好きなタイトルとなりました。
ちなみにこちらの作品、依頼者とのやり取りの中でホームズが自分の過去の失態について語るシーンがあります。

依頼人「あなたなら何でも解決できると聞きました」
ホームズ「それは誉めすぎですな」
依頼人「決して負かされないと」
ホームズ「私は四回してやられています。3回は男性に、たった一度だけ女性に」

もちろんたった一度の女性は、アイリーン・アドラーのことです。負けを認めているのです。


シャーロック・ホームズの古典事件帖 (論創海外ミステリ)

 

その他の三回は、結局なんだったのか…考察は続きますが、ひょっとしたらホームズにとって5回目に値するのが、この事件となるのかもしれません。